アゼルバイジャンCOP29報告!どうなる2025年の気候変動対策

社会文化部による2024 年 11 月に行われた国連の気候変動枠組条約締約国会議 COP29 のレポートをお届けします。

2024年11月16日から24日まで、アゼルバイジャンの首都バクーで国連の気候変動枠組条約締約国会議COP29が開催されました。アゼルバイジャンは、かつてソ連に属した、カスピ海沿岸にある人口およそ1000万の国です。首都バクーには世界初の油田があり、今回は産油国でのCOP開催となりました。街のシンボルタワーも炎の形をしています。また、大統領の開幕演説が「化石燃料は神の恵みです!」から始まる会議となりました。世界各国の交渉団をはじめ、NGOやアカデミア、ビジネス界、若者、そしてメディアが大集結し、その数は6万5000人に上りました。なお近年のCOPは、ノンステートアクターと呼ばれるこうした世界中の気候変動関係者が集う場になっています。会場までのシャトルバスは全て電気自動車かハイブリッド。会場内では、参加記念のマイボトルでの給水が当たり前になっていました。


今回のテーマは、「グリーンな世界のための連帯」です。そして、メインの議題は、気候資金と呼ばれる先進国が途上国の気候変動対策のために拠出する資金の新しい目標金額で合意することでした。しかしながら、会議の交渉は難航し、連帯どころか、先進国と途上国の分断がますます強まった感があるのが実情でした。印象的だったのが、「PAY UP(金を払え!)」というアクション。会場では、連日、数々の抗議活動が行われていますが、口をテープで覆って「つべこべ言わないで金を払え!」と訴える環境活動家の姿が目立ちました。


それもそのはず、2024年は、ついに産業革命前からの気温上昇が年間で1.5℃を超えてしまった初めての年になり、世界中で異常気象が相次ぎました。南極やグリーンランドの氷床の融解も加速し、海水温の上昇も深刻です。海面上昇やハリケーンなどの脅威にさらされている小島嶼国をはじめとする発展途上の国々は、現状1000億ドルの資金を1兆3000億ドルに増額することを要求していました。しかし、2週間話し合った結果の実際の決着額は3000億ドル。これでも46兆円となり、現状の3倍ですが、希望額とは非常に大きな開きがあります。会期を2日延長して「少なくとも」という言葉を付け加えてかろうじて合意はしましたが、途上国の怒りは収まりません。
一方、先進国から見れば、途上国といっても中国やインドは資金力があり、拠出する側に回って欲しいというのが本音です。ただ今回は首脳級の参加が少なく、分断を乗り越える画期的なリーダーシップは見られませんでした。今年は、トランプ次期大統領がパリ協定から離脱を宣言。これからCOPは一体どこに向かうのか、不安な雲行きです。
唯一の希望は、産業革命発祥の地であるイギリスが見せた“野心”です。今年提出が求められている2035年までのNDC(国別の温室効果ガスの削減目標)を1990年比で81%削減に引き上げるとCOPで発表しました。イギリスは、2024年9月を最後に、石炭火力発電所の運転を終えるなど、脱炭素と再生可能エネルギーに大きく舵を切っています。あと10年で81%削減まで持っていくのは至難の業ですが、気候変動を食い止めるリーダーになるという気概が感じられます。
またCOP29でもう一つ驚いたのは、インドネシアが2040年までに段階的に石炭火力発電所を廃止することを宣言したことでした。日本はG7の中で唯一、石炭火力の廃止時期を明言していない国になっていますが、ついに新興国にも抜かれてしまったことへの強いショックと恥ずかしさを感じた宣言でした。


COP29では、各国のパビリオンでさまざまなセミナーが開かれ、どうしたら気候変動対策を加速できるのか、議論が続きます。トランプ大統領が就任したアメリカも、ビジネス界の人々は、EUで始まる強い規制への対応や中国に脱炭素ビジネスの覇権を取られたくない思いもあって、したたかに動いていました。
今回、日本のビジネス界や若者たちも数多く参加していました。ただ現地に行った人間は大きな刺激を受けて帰国するのですが、日本の政策そのものは温暖化対策に逆行しているとみなされ、2つの化石賞を受賞するなど、世界の中ではほとんど存在感を示せていないのが現状です。


案の定、帰国後、こんなニュースが飛び込んできました。12月に審議会での議論を経て発表された日本のNDC案は、1.5℃目標に整合していると言えない極めて低いものでした。2035年までに2013年比で60%削減という目標なのですが、IPCCが基準としている2019比に換算するとたったの49%削減です。IPCCは、1.5℃目標達成には2019年比で世界全体で60%の削減が必要だとしており、先進国である日本が49%というのはいささか恥ずかしい目標です。
ちなみに今、策定中の第7次のエネルギー基本計画での2040年の再エネ目標も4〜5割と極めて低く、現在すでにこの数字を達成している国がたくさんある中では、低すぎる目標になっています。COP29に出向いた若者たちやビジネス界もこの数字には憤りを感じており、このままでは地球環境が危ういだけでなく、日本の産業にとっても大きなピンチになるかもしれません。
日本政府は、確実に減らせる目標を立てるのが大事という姿勢のようですが、温暖化の進行具合を見ると、そんな悠長なことでは手遅れになりかねません。2025年のCOP30はブラジルのアマゾン河口の街ベレンで開かれますが、COP29で出会ったアマゾンの専門家は、干ばつが続くアマゾン南部ではティッピングポイントと呼ばれる後戻りできない変化がもう始まっていると強い懸念を示しました。私たちメディアは、もっともっと今ここにある危機と解決策を伝えなければ、と痛感したCOP29でした。

最後に、会場で印象に残ったポスターがありました。「1.5℃目標に整合するAMBITION(野心)が行方不明! この野心(猫)を見つけた報酬は気候正義」と書かれている猫のポスターが、今の状況を痛烈に皮肉っています。気候正義とは、温室効果ガスの排出の責任が少ない途上国などの地域や将来世代が真っ先に被害を受けることの不公正を正そうという人権擁護にも通底する言葉です。


2025年は放送100年の記念すべき年であり、放送界も未来世代のために今こそ高い志が求められています。NEPのSDGsについての取り組みについては、サイト内の他記事でも紹介されていますので是非ご覧ください。(文:堅達京子)
そんなCOP29ですが、日本人にとって誇らしい場面もありました。それは「子どもと若者」をテーマとする部会(Youth in action, speak the future of the world)で、釣りを通じて環境の変化に気が付いたという日本人の男の子(NHKエンタープライズ社員の息子さん・龍馬くん)が英語で「海洋温暖化」についてのスピーチを披露したことです。
龍馬くんは父親と中学2年生になるお兄さんの影響で釣りが大好きだと言います。とくにお気に入りなのが、波がおだやかで魚種が豊富な瀬戸内海での釣りだとか。長期休みの度に岡山のお気に入りスポット(釣り&釣った魚の料理&温泉が楽しめる)に出かけ、家族と瀬戸内海での釣りを楽しんでいました。しかし、2024年の夏に、瀬戸内海へ釣りに行った際に、漁師さんから「魚の漁獲量が減っている」という切実な悩みを聞いたことで、大好きな海を守りたいという気持ちが強くなったと言います。また宮古島でみた美しいサンゴ礁も、エリアによって温暖化で白くなって死んでいるというニュースを知り、なんとかしたい!という気持ちが更に高まったそうです。そこで自分の身近で感じた「海の危機」を世界の人に伝えるため、今回COP29では、以下3つの提言をしました。

1.Please protect the ocean.
(海を守ってください。)
2.Please help fishers catch fish in a way that is good for the ocean.
(魚をとる人たちが、海にやさしいやり方で魚をとれるように助けてください。)
3.And please do something to stop climate change
(そして、気候変動をとめるために何かしてください。)
スピーチを終えると「緊張したけど(みんなの前でスピーチ出来て)嬉しかった」と、大舞台の感想を話してくれました。また現地では、中国やタイ、サウジアラビアなどさまざまな国の子供たちと交流できたことも貴重な経験となったと言います。

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