誰もが舞台を楽しめる環境を目指して ― 「劇団『忍たま乱太郎』長屋物語」で取り組んだアクセシビリティ対応 ―
NHKエンタープライズ(NEP)は、舞台作品「劇団『忍たま乱太郎』長屋物語」の東京公演において、聴覚障害や視覚障害のある方にも作品を楽しんでいただけるよう、さまざまなアクセシビリティ施策を実施しました。
文化芸術は多くの人に開かれたものである一方で、障害の有無によって鑑賞の機会に差が生じることがあります。本公演では、「誰もが、誰とでも一緒に、気軽に楽しめる場」を目指し、専門団体や有識者の協力を得ながら、公演運営の段階からアクセシビリティを組み込んだ環境づくりに取り組みました。
聴覚障害のある方に向けた舞台手話通訳
聴覚障害のある方を対象とした公演では、舞台手話通訳を実施しました。
舞台手話通訳は、登場人物のセリフだけでなく、音楽や効果音など作品を構成する音の情報も含めて手話で伝える取り組みです。作品の世界観や演出意図を理解したうえで手話表現へと翻訳し、舞台と同時進行で提供しました。
また、手話通訳が見やすい専用座席を設けるとともに、台本タブレットの貸し出しも実施。
タブレットの貸出時には操作説明を行うほか、公演中にも確認できるようマニュアルを作成し、あわせて提供しました。来場者が自身に合った方法で作品を楽しめる環境を整えました。
舞台手話通訳は一人で行われていると思われがちですが、実際には、台本をテロップとしてモニターに送出するスタッフに加え、キャストのアドリブやカーテンコールでの発話内容をリアルタイムで伝える通訳者を含めた、3名体制で実施しています。
公演当日までの間、適宜更新される舞台台本の共有はもちろん、舞台手話通訳者が手話を行いやすいよう台の高さや位置を調整するなど、密に連携を取りながら準備を進めることで、円滑なリアルタイム通訳を可能にしています。
さらに、お客様の近くでパソコン操作を行う場面もあるため、パソコンやモニターの光が舞台鑑賞の妨げとならないよう、遮光カバーを使用するなど、細部にわたる配慮も行いました。
視覚障害のある方に向けたライブ音声ガイド
視覚障害のある方を対象とした公演では、ライブ音声ガイドを提供しました。
舞台上で起きている動きや表情、場面転換などをリアルタイムで解説し、視覚情報を音声として届けることで、作品への理解を支援しました。
会場では専用ラジオの貸し出しを行ったほか、来場時の案内や座席への誘導、緊急時の情報提供方法についても事前に整備。安心して鑑賞できる環境づくりに取り組みました。
また、申込専用メールを設け、場内での誘導希望の有無(全盲・弱視)、当日連絡可能な電話番号、白杖・盲導犬の利用有無、ラジオ貸し出し希望、介助者の有無などを事前に確認しました。併せて参加者には当日案内メールを事前送付し、指定時刻を目安にご来場いただくようお願いしたことで、当日は受付付近で待機しつつ、ご来場のタイミングに合わせてこちらからお声がけを行い、スムーズな受付サポートを実施しました。
受付から客席までは階を移動する必要があるため、スタッフ1名が付き添い、エレベーターを利用して会場階までご案内しました。
キャラクターや舞台セットの情報は事前にご案内する場合もありますが、本公演では開演前にライブ音声ガイドを通じて補足情報を提供しました。観劇前に情報を共有することで、お客様の理解をより深める重要な工程となっています。
鑑賞体験を支える細やかなサポート
アクセシビリティ対応は、公演中のサービスだけではありません。
アクセシビリティ専用のマニュアルを作成し、会場までのアクセス方法を写真付きで案内したほか、車いす利用者向けの移動ルート情報も事前に整備しました。また、受付では筆談ボードやコミュニケーションボードを用意し、多様なコミュニケーション手段に対応しました。
公演前には、本公演がアクセシビリティ提供公演であることを案内し、音声ガイドや台本タブレットを利用されるお客様がいらっしゃる旨を、あらかじめ来場者全体にアナウンスしました。
さらに、地震や火災などの緊急時には、手話通訳や音声ガイドを通じて避難情報を伝達できる体制を整備。来場者が安心して公演を楽しめるよう準備を進めました。
文化芸術をより身近なものに
文化芸術を楽しむ権利は、誰にとっても等しく保障されるべきものです。
NEPでは、障害の有無にかかわらず多様な人々が文化芸術に参加できる環境づくりを重要なテーマの一つと考えています。
今回の公演では、台本タブレットの貸与や舞台手話通訳といった情報保障(舞台手話通訳や台本タブレットなど)の導入により、これまで観劇が難しかった方にもご来場いただく機会を広げることができました。実際に、手話通訳をきっかけに来場された方も多く、通訳の存在そのものが観劇の動機につながっていることが明らかになりました。また、舞台上での手話表現やキャストによる挨拶なども、観劇体験の満足度向上につながっていたことがうかがえました。
さらに、手話通訳や音声ガイドといったアクセシビリティ要素については、公演時にとどまらず、映像作品への収録を望む声も寄せられ、鑑賞機会のさらなる拡張に対する具体的なニーズも示されました。
今回の取り組みを通じて得られた知見を今後の事業にも生かしながら、誰もが舞台やイベントを楽しめる社会の実現に向けた取り組みを続けていきます。
更新